一見シンプルに見える基板は、電子部品を確実につなぐための緻密な工程の繰り返しで作られています。そのひとつがエッチングであり、これは品質と精度を大きく左右する重要なプロセスです。この記事では、エッチングの基本的なしくみから具体的な工程まで詳しく解説しているので、ぜひ参考にしてください。
よく聞く「エッチング」とは
エッチングは、酸やアルカリなどの腐食性がある薬液、あるいはイオンを利用し、材料の表面をわずかに削り取ることで加工する表面加工技術です。金属やガラス、半導体など幅広い素材に用いられており、半導体製造や微小な機械要素を扱うMEMS分野などでも多用されています。配線パターンを形成する技術
プリント基板の分野では、銅箔の表面に配線パターンを形成するためにエッチングが利用されます。基板の回路を作る際には、導体として使う部分と不要な部分をはっきりと分ける必要がありますが、このとき余分な銅箔を取り除く役割を果たすのがエッチングです。もしこの工程で誤差が生じれば、導通不良やショートといった重大な欠陥につながるため、高い精度が求められる工程です。
エッチングの原理
材料の表面に「レジスト」と呼ばれる耐薬品性の高い膜を塗布します。このレジストは、削りたくない部分を守るマスクの役割を果たすものです。その状態でエッチング液に浸すと、レジストで覆われていない部分だけが薬液によって溶かされ、徐々に取り除かれていきます。加工が済んだ後で、表面のレジストを剥がせば、意図したパターンが材料の上に残ります。一度に広い範囲を均一に処理できるため、生産効率にもすぐれるのが特徴です。
エッチングに使用するもの
エッチングにより設計通りの配線パターンを形成するためには、いくつかの専用材料や薬品が使われます。ここでは代表的なものについて解説します。マスキング材
まず必要となるのがマスキング材で、レジストやパターンフィルムを使うのが一般的です。これはエッチングの際に反応させたくない部分を覆うための保護材であり、基板表面にあらかじめ配線となる部分を覆っておくことで、薬液がその部分に反応しないようにします。エッチング処理後にレジストやフィルムを除去すると、覆われていた場所の銅だけが残り、回路を形成する仕組みです。つまり、マスキング材の設計と精度が、そのまま配線の品質や信頼性に直結します。
エッチング剤
プリント基板で一般的なのは、塩化第二鉄の水溶液です。銅箔をこの溶液に浸すと、銅が化学反応によって溶け出し、塩化銅が生成されます。しかし、生成された塩化銅は有害物質であり、そのまま廃液として流せません。日本ではPRTR法に基づき、排水処理に厳しい規制がかけられているため、無害化処理が必須です。廃液処理の代表的な方法は、消石灰を加えるやり方です。廃液に消石灰を投入すると水酸化銅と塩化カルシウムに変化し、水酸化銅を加熱すると酸化銅と水に分解され、無害化が完了します。
また、ガラスやシリコン基板を対象とするウェットエッチングでは、フッ酸がよく使われます。フッ酸は極めて毒性が強く、廃液処理を厳格に実施しなければなりません。フッ酸の廃液を無害化する一般的な方法は、消石灰や塩化カルシウムを投入し、フッ化カルシウムを生成させることです。
エッチングの具体的な方法とは
エッチングにはいくつかの方法がありますが、大きく分けると「ウェットエッチング」と「ドライエッチング」に分類されます。エッチングの種類
酸性やアルカリ性の溶液を使い、化学反応によって材料を溶かして除去する方法です。液体を用いるため、一度に広い面積を処理できる点が特徴で、量産工程に適している方法です。一方、ドライエッチングは、イオンビームにより表面の原子を除去して加工する方法です。イオンを高速でぶつけて表面を削り取るため、極めて高精度な微細加工に適しています。
ウェットエッチングの工程
まず、透明シートに加工パターンを描いたフォトマスクが必要です。次に基板表面を洗浄し、油分やゴミを取り除いてレジストが均一に密着できる状態に整えます。その後レジストを塗布しマスクを重ねて紫外線を照射すると、光が当たった部分が硬化し、耐薬品性を持つ層が形成されます。硬化していない部分を洗い流せば、エッチング液に触れる部分と保護される部分が明確に分かれ、エッチングの完了です。
洗浄工程が重要
エッチングの後、さらに洗浄して残った薬液や微細な残渣を除去します。この洗浄は極めて重要です。しっかりと洗浄されないとエッチング液が残留し、腐食や錆、断線などの不具合を引き起こす可能性があります。とくに多層基板では、圧縮工程の前に入念な洗浄を実施しなければ、後から内部の確認・洗浄が困難です。
また、ドライエッチングでも洗浄は欠かせません。半導体分野では、不要な粒子を除去する原子洗浄と呼ばれる工程があります。いずれの方法においても、洗浄に用いる薬液は種類も多く、消費量も大きいため、廃液処理の徹底が不可欠です。